Tchen tenterait-il de lever la moustiquaire ? Frapperait-il au travers ? L’angoisse lui tordait l’estomac.
André Malraux, "La Condition humaine" (アンドレ・マルロー『人間の条件』 ) 冒頭の文章、第4回目。
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3回目
最初の二つの文は、
チャンは蚊帳をめくり上げようとするのだろうか? 貫いて突くのだろうか?
というように解釈しておきました。
今日は三つ目の文です。
L’angoisse lui tordait l’estomac.
発音は、
ラングワッス リュィ トルデ レストマ
です。
最後の単語 estomac は最後の -c を発音しないので「エストマック」ではなく、「エストマ」になります。
男性名詞で意味は「胃」。
英語の 「胃」の意味の stomach(スタマック)とちょっと似てるけどけっこう違いますね。
さて、
L’angoisse lui tordait l’estomac.
を、不明な単語をそのままに、前から並べて訳すと、
アングワッスは 彼に トルデしていた 胃を
となります。
lui は「彼に」と「彼女に」との両方の可能性がありますが、ここは「チャン」のことだと思われるので「彼に」としておきましょう。
日本語の語順っぽくすると、
アングワッスは 彼に 胃を トルデしていた
という感じでしょうか。
アングワッス(angoisse)は女性名詞で、
強い不安、苦悩、恐怖
という意味で、単なる「心配」とかじゃなくて、息詰まるような不安です。
とりあえず、
強い苦悩は 彼に 胃を トルデしていた
となります。
tordait は半過去形です。
不定詞(原形、元の形)は、
tordre(トルドゥル)
です。
直説法半過去形の活用語幹は、直説法現在形の nous と同じでした。
tordre を直説法現在形に活用させると、
je tords (ジュ トール)
tu tords (テュ トール)
il tord (イル トール)
nous tordons (ヌ トルドン)
vous tordez (ヌ トルドン) ヴ トルデ)
ils tordent (イル トルドゥ)
となるので、nous のときのかたち、
tordons
から - ons を取った
tord-
が tordre の半過去形の活用語幹です。
半過去形の活用語尾は、
je -ais
tu -ais
il -ait
nous -ions
vous -iez
ils -aient
でしたので、活用させてみると、
je tordais
tu tordais
il tordait
nous tordions
vous tordiez
ils tordaient
となります。
そして tordre の意味は、
ねじる、よじる
なので、
L’angoisse lui tordait l’estomac.
は、
苦悩は 彼に 胃を ねじっていた(よじらせていた)
となります。
いま手元にある 『プチロワイヤル仏和辞典』 で tordre を調べたら、
〔胸・腹など〕をきりきり痛ませる
という意味が載っていて、その例文に、
L'angoisse me tordait le ventre.
激しい不安で私の胃がきりきりと痛んだ。
と出ているではないですか!
これは、今やってる、
L’angoisse lui tordait l’estomac.
とほとんど同じです。
違いは、
lui → me
l’estomac → le ventre
の二箇所です。
※ estomac は「胃」ですが、ventre(ヴォントゥル) は「お腹」です。
すると、
L’angoisse lui tordait l’estomac.
のほうは、
激しい不安で彼の胃がきりきりと痛んだ。
と訳せそうです。
訳はこれでいいで良いでしょう。
でも、lui (彼に)が気になります。
もう一度直訳してみると、
強い不安が 彼に 胃を きりきり痛ませた。
となり、このままでは「彼の胃を」とはなりません。
どうなっているのでしょうか?
続きます...。
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