André Malraux, "La Condition humaine" (アンドレ・マルロー『人間の条件』 ) 冒頭の文章、第5回目。
→ André Malraux, "La Condition humaine" (amazon)
→ 4回目
いちおうここまでの訳文は、
チャンは蚊帳をめくり上げようとするのだろうか? 貫いて突くのだろうか?激しい不安で彼の胃がきりきりと痛んだ。
となりました。
残った問題は、
チャンは蚊帳をめくり上げようとするのだろうか? 貫いて突くのだろうか?激しい不安で彼の胃がきりきりと痛んだ。
となりました。
残った問題は、
L’angoisse lui tordait l’estomac.
の、lui (彼に)でした。
もう一度直訳してみると、
強い不安が 彼に 胃を きりきり痛ませた。
となりますが、この 「彼に」 はなんなのか。
強い不安が彼の胃をきりきり痛ませた。
の、lui (彼に)でした。
もう一度直訳してみると、
強い不安が 彼に 胃を きりきり痛ませた。
となりますが、この 「彼に」 はなんなのか。
強い不安が彼の胃をきりきり痛ませた。
なら、
L’angoisse tordait son estomac.
というように、son estomac とならないのか。
同じような例として、たとえばクラウン仏和辞典に以下のような例文と訳文があります。
Je lui ai serré la main.
ジュ リュィ エ セレ ラ マン
私は彼(女)の手を握った.
※ serrer は「握る」です。
日本語訳では「彼の(あるいは彼女の)手を握った」となりますが、仏文では、
J'ai serré sa main.
とはなっていません。
これらの文に共通しているのは、身体(からだ)の一部(胃とか腹とか手とか)をどうこうした、という意味の文だということ。
そして、「彼の(彼女の)何なに」や「私の何なに」を表すのに、son(sa)や mon(ma)ではなく、lui や me が使われ、対象となる名詞(estomac や ventre や main)には定冠詞 (le や la)が付いている、ということです。
lui や me は文法用語で「人称代名詞」といいます。
つまり、身体の一部が動詞の目的語になる時、その身体の所有者を人称代名詞で示している、ということです。
フランス語文法の参考書をみてみましょう。
目黒士門 『現代フランス広文典』 (白水社, 2000) の 159ページ、「補語人称代名詞」 の 「間接補語」の箇所 に以下のようにあります。
「また、身体部分を表す名詞とともに用いられ、所有者を示す。」
その例文として
Il m'a serré la main.
彼は私の手を握った。
という文などが出ています。
この用法で使われる人称代名詞は 「間接補語」 の形になります。
人称代名詞には、「間接補語」 のほかに 「直接補語」 という形などがありました。
一人称や二人称 (私やあなた) のときは、「間接補語」 も 「直接補語」 も形が同じで、 me, te, nous, vous です。
が、三人称では、間接補語は lui, leur、直接補語は le/la, les でした。
※ 目黒士門 『現代フランス広文典』 (白水社) 3,888円
つまり、身体の一部が動詞の目的語になる時、その身体の所有者を人称代名詞で示している、ということです。
フランス語文法の参考書をみてみましょう。
目黒士門 『現代フランス広文典』 (白水社, 2000) の 159ページ、「補語人称代名詞」 の 「間接補語」の箇所 に以下のようにあります。
「また、身体部分を表す名詞とともに用いられ、所有者を示す。」
その例文として
Il m'a serré la main.
彼は私の手を握った。
という文などが出ています。
この用法で使われる人称代名詞は 「間接補語」 の形になります。
人称代名詞には、「間接補語」 のほかに 「直接補語」 という形などがありました。
一人称や二人称 (私やあなた) のときは、「間接補語」 も 「直接補語」 も形が同じで、 me, te, nous, vous です。
が、三人称では、間接補語は lui, leur、直接補語は le/la, les でした。
※ 目黒士門 『現代フランス広文典』 (白水社) 3,888円