[フランス語中級]
フロベール 『感情教育』 ( Flaubert, "L'Education Sentimentale" ) の一節の続き、三回目です。
→ 一回目 遠くをぼんやりと
→ 二回目 音楽が止まったとき 1
前回は、
Quand la musique s'arrêta, elle remua les paupières plusieurs fois
音楽が止まったとき、彼女は瞼を何度も動かした。
まで見てみました。
今日は、その続きの
comme si elle sortait d'un songe
についてやりましょう。
発音:
comme si
コム スィ
elle sortait
エル ソルテ
d'un songe
ダン ソンジュ
comme si は決まりきった表現で、
まるで...のように
という意味になります。
※ 英語でいうと as if みたいなものです。
comme si の後には直説法半過去あるいは直説法大過去の文が続きます。
今回の場合は、
elle sortait
なので半過去形です。
※ sortait は sortir の半過去形。 もし大過去だったら elle était sortie となります。
半過去を使うのか大過去なのかは、表現されている内容が現在のことなのか過去のことなのかということには関わりません。
どちらが使われるかの基準は、
comme si ...が修飾している文の時と同じ時点の場合は半過去
comme si ...が修飾している文の時とより以前の時点の場合は大過去
となります。
今回の場合、 comme si elle sortait d'un songe の sortais は半過去ですので、「 comme si ...が修飾している文の時と同じ時点 」 を表現していることになります。
では、ここで言う 「comme si ...が修飾している文」 とはどういうことでしょうか。
まずは例文全体の意味を解釈してから考えましょう。
さて、
comme si elle sortait d'un songe
の、songe は
夢、夢想
です。
un がついているので男性名詞だとわかります。
「夢、夢想」という意味では、
rêve (レーヴ)
というのもありましたね。
※ こちらも男性名詞です。
※ songe も rêve も同じような意味ですが、songe のほうがより “文学的” になります。
※ つまり普段の会話とかでは rêve のほうを使うということです。
でこの箇所の、
sortir d'un songe
とはどういうことでしょうか。
この de を「から」ととって、
夢から出る
つまり、
夢から覚める
という感じでいいでしょう。
そうすると
comme si elle sortait d'un songe
は、
まるで夢から覚めたかのように
みたいになります。
文全体では、
Quand la musique s'arrêta, elle remua les paupières plusieurs fois, comme si elle sortait d'un songe.
音楽が止まったとき、まるで夢から覚めたかのように、彼女は何度も瞼を動かした。
という感じです。
さて、 「comme si ...が修飾している文」 はどこでしょうか。
日本語で考えると、「まるで夢から覚めたかのように」 → 「彼女は何度も瞼を動かした」 という関係になるので、
「まるで夢から覚めたかのように」 が、「彼女は何度も瞼を動かした」 を修飾しているということになります。
いわゆる 「修飾」 と 「被修飾」 の関係です。
で、 「comme si ...が修飾している文」 は、
elle remua les paupières plusieurs fois
で、その時(時制) は単純過去 (← remua)です。
つまり、
comme si elle sortait d'un songe の半過去形の sortait が表している時点は、
elle remua les paupières plusieurs fois の単純過去の remua の時点と同じ、
ということになります。
「彼女が夢から覚めている」 のと、「彼女が瞼を動かした」のは同じ時間の中でだということです。
なのでそれっぽく訳しましょう。
Quand la musique s'arrêta, elle remua les paupières plusieurs fois, comme si elle sortait d'un songe.
音楽が止まったとき、まるで夢から覚めつつあるかのように、彼女は何度も瞼を動かした。
今回の説明はちょっとわかりずらかったかもしれません...。 ごめん。