Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.
(Raymond Queneau, "Zazie dans le métro", 1959)
20世紀の作家、レイモン・クノーの『地下鉄のザジ』(1959)の冒頭の一文です。
おおまかな発音:
Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.
ドゥキピュドンクタン スドゥモンダ ガブリエル エクセデ
最初の長い単語(?)、doukipudonktan は辞書に載ってません(たぶん)。
doukipudonktan(ドゥキピュドンクタン)は、
D'où qu'il pue donc tant ?
ドゥキルピュドンクタン
という文を、口語で実際に発音したときの音を表しています。
ふつうに書くと、
D'où qu'il pue donc tant ?
ドゥキルピュドンクタン
ですが、その ル( il の l )の音が落ちて
Doukipudonktan ドゥキピュドンクタン
となっています。
ふつうはこんな書き方はしません。
この小説の作者(レイモン・クノー)はわざとこんな書き方をしたんでしょう(たぶんおもしろがって?)。
で、もとの文
D'où qu'il pue donc tant ?
の、
D'où は de + où。英語だと from where で「どこから」。
D'où qu'il pue ... の que は何かというと...。
この文全体は疑問文ですが、ふつうの疑問文の書き方だと、たとえば、
D'où esc-ce qu'il pue donc tant ?
というように est-ce que を入れたりします。
D'où qu'il pue donc tant ? の que はおもに口語で、この est-ce que の代わりとして使われるようです。
たとえば、手元にある仏和辞典には、
《話》 疑問詞+que 《=疑問詞+est-ce que, 倒置を避けるため》.
Pourquoi que tu demandes ça? どうしてそんなことを聞くんだ
とあります(クラウン仏和辞典より)。
donc はここでは
《疑問・命令・驚きなどの強調》いったい,へえ,おい,まさか(プチ・ロワイヤル仏和辞典)
にある、「いったい」っていうかんじでしょう。
pue は puer (悪臭を発する、臭い)という動詞。
il pue の主語の il は、意味を持たない、形式上の主語です。
たとえば辞書にはこんな例文が載っていました。
Ça pue dans cette salle. この部屋は臭い. (クラウン仏和辞典)
この Ça と同じかんじです。
tant は「そんなに」「とても」。
ここまでで Doukipudonktan ( D'où qu'il pue donc tant ) ? は、
いったいどこからこんなに臭ってるんだ?
となります。
次の、
se demanda Gabriel excédé
では、述語動詞の se demanda と、主語の Gabriel が倒置しています。
これは疑問の形ではないです。
「...とガブリエルは自問した」です。
demanda は、demander の単純過去です。
se demander は demander の代名動詞で「自問する」「いぶかる」です。
こういう場合、ふつうはその前の Doukipudonktan を、引用符で囲んで、
"Doukipudonktan", se demanda Gabriel excédé.
とします。
さいごの excédé は、動詞 excéder(超える)の過去分詞です。
excéder には「疲れさせる」「いらいらさせる」という意味もあります。がまんできる状態を〈超える〉っていうことから来ているのでしょう。
ですので、過去分詞 excédé は「疲れた」「いらいらした」となります。
Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.
いったいどこからこんなに臭ってくるんだ、いらいらしたガブリエルは自問した。
この excédé を形容詞的に Gabriel を修飾してるんじゃなくて、副詞っぽく動詞部分(se demanda)を修飾していると考えると、
いったいどこからこんなに臭ってくるんだ? と、ガブリエルはいらいらして言った。
(以上)