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2022-04-25

いったいどこから臭ってくるんだ

Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.

(Raymond Queneau, "Zazie dans le métro", 1959)


20世紀の作家、レイモン・クノーの『地下鉄のザジ』(1959)の冒頭の一文です。


おおまかな発音:

Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.

ドゥキピュドンクタン スドゥモンダ ガブリエル エクセデ


最初の長い単語(?)、doukipudonktan は辞書に載ってません(たぶん)。

doukipudonktan(ドゥキピュドンクタン)は、

D'où qu'il pue donc tant ?
ドゥキルピュドンクタン

という文を、口語で実際に発音したときの音を表しています。

ふつうに書くと、

D'où qu'il pue donc tant ?
ドゥキルピュドンクタン

ですが、その ル( il の l )の音が落ちて

Doukipudonktan ドゥキピュドンクタン

となっています。

ふつうはこんな書き方はしません。

この小説の作者(レイモン・クノー)はわざとこんな書き方をしたんでしょう(たぶんおもしろがって?)。


で、もとの文

D'où qu'il pue donc tant ?

の、

D'où は de + où。英語だと from where で「どこから」。


D'où qu'il pue ... の que は何かというと...。

この文全体は疑問文ですが、ふつうの疑問文の書き方だと、たとえば、

D'où esc-ce qu'il pue donc tant ?

というように est-ce que を入れたりします。

D'où qu'il pue donc tant ? の que はおもに口語で、この est-ce que の代わりとして使われるようです。

たとえば、手元にある仏和辞典には、

《話》 疑問詞+que 《=疑問詞+est-ce que, 倒置を避けるため》.

Pourquoi que tu demandes ça? どうしてそんなことを聞くんだ

とあります(クラウン仏和辞典より)。


donc はここでは

 《疑問・命令・驚きなどの強調》いったい,へえ,おい,まさか(プチ・ロワイヤル仏和辞典) 

にある、「いったい」っていうかんじでしょう。


pue は puer (悪臭を発する、臭い)という動詞。

il pue の主語の il は、意味を持たない、形式上の主語です。

たとえば辞書にはこんな例文が載っていました。

Ça pue dans cette salle. この部屋は臭い. (クラウン仏和辞典)

この Ça と同じかんじです。


tant は「そんなに」「とても」。


ここまでで Doukipudonktan ( D'où qu'il pue donc tant ) ? は、

いったいどこからこんなに臭ってるんだ?

となります。


次の、

se demanda Gabriel excédé

では、述語動詞の se demanda と、主語の Gabriel が倒置しています。

これは疑問の形ではないです。

「...とガブリエルは自問した」です。

demanda は、demander の単純過去です。

se demander は demander の代名動詞で「自問する」「いぶかる」です。


こういう場合、ふつうはその前の Doukipudonktan を、引用符で囲んで、

"Doukipudonktan", se demanda Gabriel excédé.

とします。


さいごの excédé は、動詞 excéder(超える)の過去分詞です。

excéder には「疲れさせる」「いらいらさせる」という意味もあります。がまんできる状態を〈超える〉っていうことから来ているのでしょう。

ですので、過去分詞 excédé は「疲れた」「いらいらした」となります。

Doukipudonktan, se demanda Gabriel excédé.

いったいどこからこんなに臭ってくるんだ、いらいらしたガブリエルは自問した。 

この excédé を形容詞的に Gabriel を修飾してるんじゃなくて、副詞っぽく動詞部分(se demanda)を修飾していると考えると、

いったいどこからこんなに臭ってくるんだ? と、ガブリエルはいらいらして言った。

ってかんじになります。 こっちのほうが自然ですね。


(以上)