( Comte de Lautréamont, "les Chants de Maldoror" )
ロートレアモン伯爵 『マルドロールの歌』 から。
『マルドロールの歌』の文はこれまで二回扱っています。
→ でも大丈夫、簡単に手でこうやって (2013/02/11)
→ これは失敬、どうも髪の毛が (2013-02-09)
○ 発音
では、いつものように発音を確認しましょう。
On doit
オン ドワ
laisser pousser
レセ プセ
ses ongles
セゾングル
pendant quinze jours.
ポンドン カーンズ ジュール
実際に耳で聞いてみたい方は :
→ 発音例 (Sound Cloud)
ネイティブの発音じゃないので適度に参考にしてください...。
○ 語句と解説
単語の意味を確認しながら文の内容を見ていきましょう。
_ on
「不定代名詞」、文の主語としてのみ使われます。なぜ「不定」な代名詞かというと、「不特定の人」を示したりするからです。「だれかが」とか「人は」「人々は」とか。
ほかに、「あなたは」「わたしは」「私たちは」みたいに、vous や je や nous などの代わりに使われることもあります。
主語の on に続く動詞は三人称単数形、つまり il や elle のときと同じ活用になります。たとえ on が「私」や「あなた」を内容として指していても、動詞の活用は三人称単数形です。
_ doit
devoir の直説法現在・三人称単数形。 意味は 「~しなければならない」 など。
とりあえず On doit ... で「人は~しなければならない」って感じになりますかね。
_ laisser
「 laisser + 不定詞 」で、「~させる」「~するがままにしておく」です。
* 「不定詞」って動詞の原形(活用しない形)ですね。
そうすると On doit laisser ... で、 「人は~するがままにしておかねばならぬ」。
_ pousser
英語の push 。 「~を押す」という意味ですが、このあとすぐに ses ongles と「爪」という名詞がきているので、ここでは 「生える(はえる)」「伸びる」。
なので、On doit laisser pousser ... までは 「人は伸びっぱなしにしておかなくてはいけない」みたいな感じ。
では、何を伸びっぱなしにしておくのか。
_ ses
所有形容詞 son の複数形です。いみは「彼の」とか「彼女の」とか「それの」とかです。
ところでなぜ「所有形容詞」っていうのか?
所有形容詞は他に mon (私の)とか ton (君の)とかがありますが、いずれも「だれだれの」という意味があります。「だれだれの」ですから「所有」の意味を持っているわけです。
また「形容詞」ですが、形容詞の役割は「名詞を修飾する」こと。 所有形容詞は「だれだれの」という意味ですから、必ずその後には「私の本」「彼の車」みたいに、「本」「車」などの「名詞」が来ます。
つまり、所有形容詞は「名詞を修飾」します。なので所有「形容詞」です。
話はもどって、この ses ongles の ses (彼の、彼女の、それの)の「彼、彼女、それ」とは「だれ」なんでしょうか?
_ ongle
男性名詞で「爪」という意味。
そうすると On doit laisser pousser ses ongles で、「彼の(彼女の)爪を伸ばしっぱなしにしておくべきだ」になりますが、この「爪」は「だれ」の爪なんでしょうか。
さきほど主語の on という代名詞(不定代名詞)は主語にしか使われないと言いました。
では on の所有形容詞ってないんでしょうか?
何が言いたいかというと、たとえば je ならばその所有形容詞は mon、tu なら ton です。 では on の所有形容詞は?
on は所有形容詞の形がないので、ほかの所有形容詞である son を借用します。
ses ongles は 主語 on 自身の爪だということになります。
なので、On doit laisser pousser ses ongles は 「人は自分の爪を伸びるがままにしておかねばならぬ」と解することができます。
_ pendant
前置詞で、「~の間」と期間を表します。 英語だと during でしょうか。
_ quinze
数詞ですね。「15」です。
_ jour
男性名詞。「日」、英語の day 。
quinze jours で「15日」、pendant quinze jours で「15日間」ということになりますが、フランス人は「今日」から数えて15日間と考えるらしく、pendant quinze jours は、今日から数えて15日間、つまり「二週間」となります。
これで、On doit laisser pousser ses ongles pendant quinze jours. は、「人は二週間の間自分の爪を伸びっぱなしにしておかなくてはいけない」 となりますね。
○ 逐語訳
On 人は quinze jours 二週の pendant 間 ses ongles 自分の爪が pousser 伸びる laisser がままにして doit おかねばならぬ。
○ 分かち訳
On 人は doit せねばならぬ laisser pousser 伸びっぱなしに ses ongles 自分の爪を pendant quinze jours 二週の間.
○ 訳例
On doit laisser pousser ses ongles pendant quinze jours.
二週間ずっと爪を伸ばしたままにしておくんだ。
○ リンク
→ 原文: Wikisource
→ 翻訳: 集英社文庫、ちくま文庫