→ 1回目 私の心に涙降る 1
Comme il pleut sur la ville ;
Quelle est cette langueur
Qui pénètre mon coeur ?
※ Gustave Caillebotte, "Rue de Paris, temps de pluie", 1877
今日は 2行目の、
Comme il pleut sur la ville
コム イル プル シュル ラ ヴィル
を見てみます。
最初の comme にはいろいろな意味と用法があります。
1. ~のように [類似]
2. ~として [資格]
3. ~なので [理由]
4. ~するときに [時]
5. なんと~ [感嘆文]
....
うーん、迷いますね。
とりえあず、comme のあとを見てみましょう。
il pleut sur la ville
il pleut で 「雨が降る」 です。
※ この場合の il はいわゆる 「形式主語」 です。
sur la ville の sur は 「~の上に、の上の方に」 という前置詞、
ville は女性名詞で 「町、都会」 なので、il pleut sur la ville は、
町に雨が降る
です。
ここで、 comme を 「~のように」 ととって、
Il pleure dans mon coeur
Comme il pleut sur la ville ;
を、
彼が私の心の中で泣いている
町に雨が降るようにして
としてみると、なんとなく意味が通じます。
詩っぽいかも。
※ 「彼が泣く」 の il pleure と、「雨が降る」 の il pleut が似ていますね。
ところで、もう一度堀口大學の訳を見てみると、
巷(ちまた)に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。
となっていて、「彼が泣く」 ではなく、「わが心にも涙ふる」 となっているので、泣いているのは 「彼」 ではなく 「私」 っぽいです。 しかも涙が 「降って」 ます。
別の人の訳を見てみましょう。
鈴木信太郎 (フランス文学者) という人の訳は、
都に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。
やっぱり堀口さんの訳と同じ感じです。
もう一人、詩人の金子光晴の訳、
しとしとと街にふる雨は、
涙となって僕の心をつたう。
かなり自由に訳してますが、
Il pleure dans mon coeur
Comme il pleut sur la ville ;
の、一行目の il pleure を 「...雨は涙となって...」 としています。 やはり泣いているのは 「彼」 ではなく、私ですね。
では、
Il pleure dans mon coeur
この il は、2行目の
Comme il pleut sur la ville ;
の il pleut に合わせて非人称の il として表現されているらしいです (発音も似てるし) 。
もちろん文法的には変です。
il pleut (雨が降る) の主語の il がとくに何も指していないように、il pleure (涙が降る) の il も何も指さないことで、誰かが泣いているという能動的な感じじゃなくて、とにかくなんか涙が出ちゃうんだよみたいな雰囲気が出てるんでしょうか。
ここまでを訳しておきましょう、
Il pleure dans mon coeur
Comme il pleut sur la ville ;
街に雨が降るように
◆ 翻訳書
ヴェルレーヌの詩は文庫版だと、堀口大學訳の新潮文庫 『ヴェルレーヌ詩集』 があります。