グローバルメニュー

2013-02-09

これは失敬、どうも髪の毛が


Pardon, il me semblait que mes cheveux s'étaient dressés sur ma tête; mais, ce n'est rien, car, avec ma main, je suis parvenu facilement à les remettre dans leur première position.

( Comte de Lautréamont, "les Chants de Maldoror" )


ロートレアモン伯爵 『マルドロールの歌』 の一節です。

"Chants de Maldoror" 初版, 1968, Wikipedia より


ロートレアモンは 1846年から1870年まで生きた (短命です!)、フランスの詩人です。

今回はこの文章の前半を見ていきましょう。


○ 発音

Pardon,
パルドン
il me semblait
イル ム サンブレ
que mes cheveux
ク メ シュヴ
s'étaient dressés
セテ ドゥレセ
sur ma tête
シュル マ テートゥ

Comte de Lautréamont
コントゥ ドゥ ロトレアモン
Les Chants de Maldoror
レ シャン ドゥ マルドロール


○ 語句

pardon : 失礼、すみません
sembler : 〜のように見える・思われる

il me semble que ... で、「私には...のように見える」という表現。que の後には、主語と述語動詞からなる文が来る。
今回は mes cheveux が主語で、 s'étaient dressés が述語動詞。

cheveu : [男性名詞] 髪の毛。複数形は cheveux と、最後に x がつきます。
dresser : まっすぐ立てる
se dresser : [代名動詞] まっすぐに立つ
tête : [女子名詞] 頭


○ 逐語訳

失敬 pardon 、私の髪が mes cheveux 私の頭上で sur ma tête まっすぐ立っていた s'étaient dressés ように que 私には思われました il me semblait 。


○ 分かち訳

Pardon (失礼), il me semblait (私には思えた) que (...と) mes cheveux (私の髪が) s'étaient dressés (立ち上がっていた) sur ma tête (私の頭の上で);


○ 大過去の用法

文中の semblait は(直説法)半過去ですが、 s'étaient dressés は (直説法) 大過去になっています。

大過去の形は、[ avoir または être の半過去形 ]  + [ 動詞の過去分詞 ] です。

s'étaient dressés の場合は、 être の半過去形と se dresser の過去分詞 dressé との組み合わせになっています。

  * dresser の過去分詞 dressé の最後に -s がついてるのはなんでかな~?


avoir とくっつくか、être とくっつくかは動詞によって決まっています。

複合過去形の場合と同じなので、複合過去形の説明をしたとこを参考にしてください。

さらに、代名動詞の場合はすべて être と結びつくことになっています。

なので、ここで 代名動詞 se dresser は être と結びついています。

大過去の用法ですが、英文法で言うところの「過去完了形」のようなものです。
つまり、或る過去の時点までに起こった出来事をいい表します。

この文の場合、 il me semblait (私には~と思えた) の semblait の半過去形で表されるのが 「或る過去の時点」 で、 「髪の毛が立っていた」 のは、「と思えた semblait 」 その時点よりさらに前 (過去) ということになります。

「私の髪の毛が立っていた」 ことを、それより後になって、「と思えた」 と言っているわけです。

この説明で大丈夫でしょうか...。


○ dressés の最後の s

代名動詞の大過去や複合過去では、その人称代名詞 (se とか) に過去分詞 (dressé とか) が性数一致する場合としない場合があります。

性数一致するかしないかは、代名動詞の作り(構造)によります。

性数一致するのは、代名動詞の代名詞(人称代名詞)が、その動詞の直接目的語(〜を)になっている場合です。

dresser は「〜をまっすぐ立てる」という動詞で、「〜」には直接目的語の名詞(や代名詞が)入ります。

これが se dresser という代名動詞になると、代名動詞の人称代名詞 se は「自分自身」(=主語を指す代名詞)を表すので、

    se dresser
    自分をまっすぐ立てる
         ↓
    まっすぐ立つ

みたいになります。

けっきょく、代名動詞 se dresser の人称代名詞 se は動詞 dresser の直接目的語です!

なので se dresser の場合は、se に dresser の過去分詞は性数一致します。

mes cheveux s'étaient dressés の se は主語の mes cheveux (男性名詞複数)を受けているので、dresser の過去分詞の最後に s が付いています!

説明がくどいっ?


○ 訳例

Pardon, il me semblait que mes cheveux s'étaient dressés sur ma tête;

これは失敬、どうも髪の毛が逆立っていたように見えたので。


○ リンク

→ 原文: Wikisource
→ 翻訳: 集英社文庫ちくま文庫