(René Descartes, "Discours de la méthode", 1637)
ルネ・デカルト (René Descartes) という、17世紀フランスのむちゃくちゃ有名な科学者・思想家の、これまた有名な 『方法序説』 (Discours de la méthode) という本の第一章の冒頭です。
※ Discours de la méthode 初版のタイトルページ (Wikipedia より)
長いので、今日は最初の一文を見てみます。
Le bon sens est la chose du monde la mieux partagée
発音は、
Le bon sens est la chose du monde
ル ボン サンス エ ラ ショーズ デュ モンド
la mieux partagée
ラ ミウ パルタジェ
です。
この文の主語は、
le bon sens
です。
sens にはざっくり言っても
感覚、意味、方向
などのいろんな意味があります。
どの意味かはこの文の後ろを見てみないと決められないかもしれません。
が、辞書をもうちょっと見てみると、bon sens が項目になっていて、
良識,分別、公正な判断力、常識
などとあります。
ですので、この文の主語の le bons sens はいちおう、
良識
と訳しておきましょう。
さて、その良識がどうなのかというと、
Le bon sens est la chose du monde ...
「良識は世界の事物だ」 と言っているようです。
「世界の事物」 って...?
「良識」 だけじゃなく、「愛」 でも、「帽子」 でも、なんでも 「世界の事物」 じゃん?
それから、chose になぜ定冠詞 la がついてるの?
不定冠詞で、
Le bon sens est une chose du monde ...
としちゃだめなの?
と、疑問がたくさんわくので、続きを見てみましょう。
Le bon sens est la chose du monde la mieux partagée
となっています。
partagée は、動詞 partager の過去分詞です。
partager は、
分ける、分割する、分配する
とか、
共有する、ともにする
とかです。
まあ、「分ける」 ということは 「共有する」 ことでもあります。
その過去分詞ですから、
分けられた、分配された、共有された
みたいな感じです。
で、この partagée は女性形 (さいごに e がついている) なので、女性名詞 (の単数形) を修飾しているはずです。
すると、「分けられ、分配され、共有され」 ているのは、直前の
le monde
ではなくて、それより前 (左) にある、
la chose
だということになります。
つまり、
la chose ... partagée
分配されている...事物
です。
では、partagée についている、la mieux は何でしょうか。
mieux は、そうです、副詞 bien の比較級・最上級です。
ここでは、定冠詞 (la) があるので、比較級ではなく最上級です。
なので、
la chose ... la mieux partagée
もっともよく分配されている...事物
となります。
そして、いま省略してた du monde ですが、そのまま訳すと、
la chose du monde la mieux partagée
もっともよく分配されている、世界の事物
となって、意味がわからないこともないですが、やっぱりへんです。
monde を辞書で見てみましょう。
....。
おおっ、やっぱりありました。
du monde
という項目が用意されていて、意味は、
この世で
となっていますが、用法として
最上級の強調
と書いてあります。
ですので、
la chose du monde la mieux partagée
この世でもっともよく分配されている事物
とするとすっきりします。
ふつうは、du monde が一番後ろにきて、
la chose la mieux partagée du monde
となると思いますが、この文は500年近く前なので...。
あるいは、口調上の問題なのか...。
とにかく、全体では、
Le bon sens est la chose du monde la mieux partagée
良識はこの世でもっとも良く分配されている事物である
↓
良識はこの世で最も公平に分け与えられたものである
という感じです。
あと、la chose が une chose じゃないのは、最上級で修飾された名詞にはふつう定冠詞がつくからです。
定冠詞の用法のポイントは 「特定する」 っていうことですが、最上級がつくということは 「一番~」 ということで、「一番」 なんだから言葉のうえでは一つしかないことになります。
つまり、「一つに特定される」 っていうことになるので、定冠詞を使うということでしょう。
※ 英語の場合も最上級で修飾された名詞には the を使いますね。
あと、けっかとして la chose ... la mieux partagée っていうふうに定冠詞が二個ついちゃいます。
なれないと変ですね。
フランス語原文は、
Discours de la méthode (éd. Cousin)/Première partie - Wikisource
などにあります。
■ 翻訳
『方法序説』 の翻訳はいくつかありますが、ここでは、岩波文庫版 を紹介します。