Dans sa mortelle angoisse, tous les dangers lui eussent semblé préférables.
[Stendhal, "Le Rouge et le Noir"]
19世紀の小説家スタンダールの『赤と黒』からです。
お金持ちの家の家庭教師になった、若くて利発で貧乏な主人公ジュリアンが、その家の奥さんを誘惑してやろうと手を握ろうとするけれど、なかなかその勇気がでずに苦しんでいる場面です。
【おおまかな発音】
Dans sa mortelle angoisse,
ダンサモルテランゴワッス
tous les dangers lui eussent semblé préférables.
トゥレダンジェ リュィイッスサンブレ プレフェラーブル
【語句】
mortelle : 形容詞 mortel の女性形。名詞 mort(死)の形容詞形。いみは「死すべき」「致命的な」「(死ぬほど)つらい」。
angoisse : 女性名詞。激しい不安や恐れ・苦悩。
sembler : 「~のように思われる・見える」。後ろに動詞の不定形(原形)
préférable : 形容詞。「より好ましい」。動詞形は préférer 「~をより好む」。
【文法】
eussent semblé の eussent は、動詞 avoir の接続法半過去形です。
avoir の接続法半過去形の活用は、
j' eusse [ジュス]
tu eusses [テュ ユス]
il eût [イリュ]
nous eussions [ヌズュシィオン]
vous eussiez [ヴズュシィエ]
ils eussent [イルズュス]
です。
覚えにくい...。
eussent semblé は〈avoirの接続法半過去 + 動詞の過去分詞〉なので「接続法大過去」です。
ここでの接続法大過去の用法ですが、いわゆる「条件法過去第2形」と言われる用法で、条件法過去形の代わりに使われます。
つまり、過去における仮定に対する帰結をあらわして「~だっただろう」という感じです。
この eussent semblé を条件法過去形で書けば、aurait semblé となります。
【訳文】
Dans sa mortelle angoisse 彼の死ぬほどの苦悩の中では, tous les dangers あらゆる危険が lui eussent semblé 彼には思えただろう préférables より好ましく.
→ 死ぬほどの苦悩の中では、あらゆる危険も彼には好ましく思えただろう。
⇒ 死ぬほどの苦しみだったので、他のどんな危険も彼にはましに思えただろう。