Melos vit rouge. Il décida de tout faire pour éliminer ce roi cruel et malfaisant.
短編小説の冒頭からです。
◆ おおまかな発音:
Melos vit rouge.
メロス ヴィルージュ
Il décida de tout faire
イルデシダ ドゥトゥフェール
pour éliminer
プールエリミネ
ce roi cruel et malfaisant.
スロワクリュエル エ マルフザン
■ Melos vit rouge.
この動詞 vit は vivire の直説法現在形3人称単数、 il vit の vit でしょうか?
それとも、voir の直説法単純過去の il vit の vit?
vivire だとすると、 vivre rouge で「赤く生きる」?
voir だと voir rouge、「赤く見る」?
辞書を見てみます。
rouge の項目に voir rouge という表現があります。
「かっとなる」。「目の前が赤くなる」ということらしい。
いっぽう、vivre rouge という表現は調べた範囲では辞書で見つかりませんでした。
そうすると、Melos vit rouge. は「メロスはかっとなった」です。
※ 英語の辞書を見ると、英語でも see red で「激怒する」という表現があるようです。
この vit が単純過去なのは、次の文の動詞が Il décida ...と単純過去になっていることからもわかります。
単純過去は日常会話やニュースの文などには出てこないのでなかなか覚えづらいですね。
たしか昔読んだフランス語の教科書に「見てそれが単純過去だとわかればいい」みたいなことが書かれていたような...。
voir の単純過去の活用を確認しておきましょう。
je vis (ヴィ)
tu vis(ヴィ)
il vit(ヴィ)
nous vîmes(ヴィム)
vous vîtes (ヴィト)
ils virent (ヴィル)
活用語尾は、
je -is
tu -is
il -it
nous -îmes
vous -îtes
ils -irent
となります。
■ Il décida de tout faire pour éliminer ce roi cruel et malfaisant.
○ Il décida 「彼は決めた・決心した」。
décida は décider の単純過去形です。
活用は voir のときとちょっとちがいます。
je décidai (デシデ)
tu décidas (デシダ)
il décida (デシダ)
nous décidâmes (デシダーム)
vous décidâtes (デシダート)
ils décidèrent (デシデール)
活用語尾は、
je -ai
tu -as
il -a
nous -âmes
vous -âtes
ils -èrent
となります。
この活用語尾はいわゆる「第一群規則動詞」(不定詞[原形]の語尾が er の動詞の大半)の場合です。
単純過去の活用パターンについてくわしくは、「北鎌フランス語講座」などを見てください...。
○ Il décida de tout faire
「彼はあらゆることをすると決めた・決心した」
〈décider de 不定詞〉で「...すると決める・決心する」。
tout (すべて)が動詞 faire の後(右)ではなく前(左)にあるのはなぜでしょうか。
プチ・ロワイヤル仏和辞典の tout の項目の説明文に次のように出てました。
不定詞の目的語の時は不定詞の前に置かれる: Il veut tout comprendre. 彼はすべてを理解したがっている.
tout が不定詞(=動詞の原形、今回の場合は faire )の目的語になっているときは、その不定詞(原形動詞)の前(左)に置く、ということです。
なので、de faire tout ではなくて de tout faire となります。
○ Il décida de tout faire pour éliminer ce roi
「彼は、この王を排除するために、あらゆることをすると決めた・決心した」
éliminer は「除去する・排除する・取り除く」。
〈pour + 不定詞〉で「...するために」。
Il décida 彼は決めた de tout faire あらゆることをすると pour éliminer ce roi この王を排除するために
○ Il décida de tout faire pour éliminer ce roi cruel et malfaisant.
ce roi の後に形容詞が2つ付いています。
cruel (クリユエル)「残酷な」。英語の cruel (クルーェル)と同じですね。
malfaisant は「有害な, 悪意のある」。mal「悪」を faisant (faireの現在分詞)「成す」という感じです。
「彼は、この残酷で有害な王を排除するために、あらゆることをすると決めた・決心した」
まとめると、
■ Melos vit rouge. Il décida de tout faire pour éliminer ce roi cruel et malfaisant.
「メロスは怒った。この残忍で悪辣な王を排除するためにはなんでもやってやろうと決めた。」
この文は太宰治の『走れメロス』の冒頭、
「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。」
のフランス語訳です。
「邪智」は広辞苑によると「よこしまな知恵。わるぢえ。」とのことです。
原文は以下から引用させてもらいました。
→ Cours, Melos! - Nouvelles du Japon
→ このブログで「単純過去」が出てくる記事
(以上)